SHDM -概要編-
■SHDMとは
アカデミーでの育成指導のメソッドを総じてSHDM(SH Development Model)とします。
ジュニア年代からプレーヤーとゴーリーのスキル向上と合わせ、アイスホッケーのプレー原則を体系化した『プレーモデル』を選手に落とし込みます。
SHDMは日々進化する現代アイスホッケーから逆算しプレーモデルを設定、選手に落とし込むための「スキル」「トレーニング」「コーチング」「育成プログラム」を全て含んだ体系です。

■プレーモデルとは
近年のサッカー界では『プレーモデル』という言葉が使われるようになりました。
欧州サッカーでは、プレーモデルの概念がジュニアクラブからプロチームまで当たり前に取り入れられているそうです。
ホッケーではあまり聞かない言葉ですが、同じゴール型球技の指導概念をホッケーに置き換えて新たなプレーモデルを作成しています。
アカデミーを始めることを決意した2年前から、指導現場に立ちながら試行錯誤してようやく形になってきましたが、まだ明確化できていない部分もあり、あくまで未完成…いえ、日々進化するホッケーに完成はないでしょう。
プレーモデル(ゲームモデルとも言う)は様々な定義や解釈がありますが、アカデミーでは以下で定義します。
プレーモデル
⇒ホッケーのプレー原則を体系化したもの
プレー原則
⇒いつどのようにプレーするか?を明確にしたもの

■プレーモデルの目的
1.スキルとホッケーIQを兼ね備える自律した選手を育成する
私がこのアカデミーを設立したときから一貫して掲げている
【スキルとホッケーIQを兼ね備える自律した選手を育成する】
このためのプレーモデルであると考えています。
『日本人はスキルがあるが、ホッケーが上手くない』
ホッケーに限らず他競技でもよく言われることです。
では『ホッケーが上手い選手』とはどんな選手か?
❶個人スキルのレベルが高い
❷ホッケーを体系的に理解している
❸認知/判断/実行で高い精度のプレーができる
スキルが高いだけでも、ホッケーの知識がたくさんあるだけでもなく
これらの能力を兼ね備えている選手=ホッケーIQの高い選手であると言えます。
近年、世界的にスキルトレーニングが広まり、シンセティックアイス、オフアイストレーニングツールが広く流通し、誰でも個人スキルを磨くことが容易になりました。
スティックや防具の進化もあり、現代ホッケーは高い技術が求められる【個人スキル時代】です。
個人スキルのレベルが上がる一方で
多くの子供たちは【プレー原則】を学ばず、ある程度するとチーム戦術(システム)を教え込まれます。
チーム戦術を分解すると、個人やグループのプレー原則の集合体であることがわかりますが、プレー原則を捉えていない選手がチーム戦術を実行しようとしても
「コーチに言われた通りに動く」ことに終始しています。
アイスホッケーというスポーツの表面的な動き方だけを真似しても、肝心なアイスホッケーのプレー原則を理解していなければ”カオス”に状況変化するゲームの中では対応ができません。
その中でもコナー・マクデイビットのように
「パックを持って走っただけで相手全員を抜きされる」ような選手1人の力で勝てたとしても、その選手もプレー原則を捉えていなければ上のカテゴリーやチームが変わると自分の良さを出せなくなります。
これらを踏まえて、アカデミーとしてやるべきだと捉えているのは
【スキルと合わせてプレー原則を体系的に選手に落とし込むこと】です。
プレーモデルはアイスホッケーの中身に当たり、【プレーモデルを有効化するスキル】を教えていきます。

スキルとホッケーIQを兼ね備える自律した選手を育成するには?
⇩
指導者がホッケーのプレー原則を体系的に理解し選手に落とし込む
(プレーモデルを有効化するスキルと知識)
⇩
選手がホッケーのプレー原則を体系的に理解しプレーとして体現する
(プレーモデルを実行するスキルと知識)
⬇︎
【選手がスキルとホッケーIQを兼ね備え自律する】
2.プレーモデルが選手の認知と判断を助ける
アイスホッケーは『世界最速の球技』であり、カオスな状況の中で高速にプレーを判断しなければなりません。
その中でプレーモデルは【選手の認知と判断を助けること】になると考えています。
「スーパーに行って食材を買って最高に美味しい料理を作って」
と言っても何をどう作れば良いかわかりませんが
「〇〇のスーパーに行って野菜と肉とルーを買って美味しいカレーを作って」
と言われるとイメージが湧くと思います。
このようにプレーモデルは、プレーを具体化しイメージしやすくすることに繋がります。
例)攻撃パターンの選択について
❶中に入れる時はゴールに近づいて素早く得点を狙う(クイックアタック)
❷中に入れない時はディレイして攻撃を作り直す(テイクタイム)
このように❶❷の状況の判断基準さえあれば、素早く実行しやすくなります。
サポートに関してもコーチが「サポート!」だけだと良くわかりません。

❶味方がプレッシャーを受けて下を向いている時は近づいてパスをもらう
⇒クローズサポート
❷味方がプレッシャーを受けてなく周りを見ている時は開いてパスをもらう
⇒オープンサポート
いつどのようにプレーするか?がはっきりすると判断しやすくなります。
プレーモデルは選手の脳内に
【判断フローチャート】を作り、プレーを判断する基準となります。



3.”じりつ”した選手を育成する
地元を離れても、海を渡ろうとも
【どこでプレーしても活躍できる”じりつ”した選手になってほしい】という私の思いがあります。
「自立」と「自律」2つの言葉があります。
自立とは【自分のことは自分でやること】です。
防具バッグやスティックの持ち運び、準備、着替え、片付け、テープやネジの管理、ボトルの準備…
上手くなりたい!良い選手になりたい!と思うなら、これくらいは自分でやることが『最低ライン』と考えます。
周りが手伝っているうちはいつまでもできるようにならないので『大人の我慢』も必要になります。
先日も練習中に「ヘルメットのボタンが閉めれない!」と助けを求めてきた子がいましたが、それは自分でやろうと言いました。
ここで手伝ってしまうと、その子が自立して生きていく力にならないからです。
自律とは【自らを律する】と書きます。
ゲームの中ではプレーを自己判断し、ミスをしても自己修正する能力が必要です。
特にゴーリーは顕著ですが、選手は自ら構え、正対、デプス、ボックス、メンタルなど様々な要素を自分で考え”自己管理”できるようにならなければなりません。
自律とは【自分で考え自己管理ができる力】であると考えます。
近年、選手の自分で考える力を身につけるためには【教えない指導】が大事だ!と捉えれています。
しかし、子どもに『自分で考えろ!』というのは無理があります。
教えない指導とはコーチングのある一部分のスキルなのですが、このフレーズだけが一人歩きしてしまうと、放置や肝心なプレー原則を学べない子が増えてしまいます。
私は選手が自分で考える力を身につけるには、まず【考え方を教えること】だと考えています。
武道には【守破離】という言葉があります。
守:師匠の教えを忠実に守る
破:熟練度が上がり教えを発展させる
離:教えをもとに師匠から離れる→自律
プレーモデルにおける【守破離】は多少の解釈が異なりますが以下で考えます。
守:プレーモデルを知識として理解する
破:プレーモデルを判断→実行できるようにする
離:プレーモデルを無意識レベルに実行できる自律した選手になる
ジュニア年代からプレーモデルを通じてプレー原則を教わる(守)
選手がプレーモデルに基づいてプレーを判断→実行できるようになる(破)
選手の中に無意識にプレーモデルが備わることで自律し、より自由にプレーできる(離)
プレーモデルを通じて
選手の頭の中に【体系化されたホッケーノート】が出来上がることで
どこでプレーしても活躍できる自律した選手になる。
というイメージを持っています。
■まとめ
長くなりましたが、プレーモデルについて以下でまとめます。
・SHアカデミーの育成指導メソッドを総じて「SHDM(SH Development Model)」
・プレーモデルはホッケーのプレー原則を体系化したもの
・プレー原則はいつどのようにプレーするか?を明確にしたもの
・ジュニア年代からプレー原則を体系的に教えることが重要
・選手の脳内にプレーを判断する基準となる【判断フローチャート】を作る
・プレーモデルを選手に落とし込むことで選手が自律して考える力に繋がる
次回はいよいよプレーモデルの中身に当たる原則について解説していきたいと思います。